“命”を全うする育て方と、生き方。
鷹島
2022.02.3
九州西北部、
佐賀県唐津市の隣にある鷹島。
主産業は農業と漁業で
中でも畜産が盛ん。
現在約560頭の肉用繁殖牛がいます。
島で生まれる牛ほとんどの
人工授精を担っているのが、
家畜人工授精師の資格を持つ
大石啓介さん・恵子さんご夫妻。
啓介さんは、
日本家畜人工授精師協会が主催する
技術発表会(2015年度)で、
全国の家畜人工授精師が参加するなか
最高賞の「西川賞」を受賞。
令和3年度には、
ICTを導入した取り組みによって
夫婦で「ながさき農林業大賞」
農林水産大臣賞・知事賞を
受賞しました。
「去年は年間150頭ぐらいのお産に立ち会いました。
今日もこのあと出産があります。」
大石さんはスマートフォンで
牛のお産の分娩管理をしています。
「お産前の牛の膣内にセンサーを入れ、
体温の変化を感知すると
スマホに通知が届きます。
それから、
赤ちゃん牛のお布団になる干し草など
出産や緊急時の準備をします。
いちばんは私たちの『心の準備』です。」
以前は、
牛のお産がいつはじまるかわからず
24時間体制で緊急対応に追われることも。
今では、
通知が来てから約24時間以内に生まれるため
時間の調整や準備をしやすくなり、
1日の過ごし方が少しずつ整ってきたそうです。
もともと動物が苦手で触れず、
畜産の仕事にも関心がなかった恵子さん。
啓介さんが25才、恵子さんが28才のとき
啓介さんの地元・鷹島へUターンし、
家業の繁殖農家を継業。
啓介さんが一心に頑張る姿を見て
「一緒にやりたい」と思うように。
子牛の育児日記をつけるなど
自分なりの工夫を重ねて、
家畜人工授精師の資格も取りました。
「生まれたばかりの
赤ちゃん牛の世話は、
女性の方が向いているかもしれない。
食欲や便の色や形を観察したり、
子育てとおんなじです。」
恵子さんは4人のお母さん。
食用の牛を育てる仕事について
子どもたちにはこう伝えているそう。
「この子たちはお肉になるために生まれて、
お肉になるまでが一生。
生まれてきた意味を
遂げさせないといかんとよ、って。
ちゃんと送り出すのが
私たちの役割だと思っています。
成人する子どもを見送る気持ちですね。」
恵子さんたちは
一般的には安楽死を選ぶような
奇形などの牛にも餌をやり、
育てています。
「生きようとしているから。」
と、見せてもらった奇形で盲目の牛は、
恵子さんがよく出入りする牛舎の
見通しの良い場所で暮らしていました。
恵子さんと啓介さんは
顔を合わせれば笑顔で冗談を言い合いながら
牛の状況を細かく報連相しています。
啓介さんに
「サラリーマンのときと比べてどうですか?」
と尋ねるとこう返ってきました。
「自営業は自分次第。
人生は一度切りですから。」
ご自身のお父さんから
譲り受けた15頭の牛は
約19年で170頭に増やしました。
「0からの新規就農は大変かもしれない。
でも雇用就農であれば、
うちは働きやすい環境だと思います。」
今年は、若い人材も育てたいという大石さんご夫妻。
農場では現在、
若いスタッフ2人が働いています。
自然と、命と向き合い
一度切りの人生を共に全うする
仲間を求めています。

大石啓介さん・恵子さん
肉用繁殖牛の家畜人工授精師、啓介さん(鷹島出身)と恵子さん(長崎市出身)。大学卒業・就職と同時に結婚。子育てをしながら東京・福岡で一般企業に勤め、平成15年鷹島へUターンして継業。ICTを導入した取り組みで令和3年度「ながさき農林業大賞」農林水産大臣賞・知事賞を受賞。今年の目標は「若い人材を育てる」こと。