元寇遺物の価値を引き上げた、新しい技術と人材。安木由美さん
2022.03.11
元寇終焉の地・鷹島。
1980年から発掘調査が始まり、
2012年には文部科学省によって
鷹島町神崎免の沖合が
海底遺跡として初めて国史跡に指定。
鷹島沖の海底からは
2隻の元寇船が見つかっています。
鷹島海底遺跡で発掘された遺物の
展示や保存処理を行うのが、
「松浦市立埋蔵文化財センター」。
安木由美さんは、2019年、
松浦市立埋蔵文化財センターに配属。
出土品の保存処理・管理を担っています。
「以前は、水槽保存されていて
直に見ることができなかった遺物も、
水槽から引き揚げて
見ていただけるようになりました。」
出土した木製品は、
そのまま乾燥させると
変形したり色が変わったり
してしまうそう。
そのため、以前は
海底から引き揚げた遺物を
水槽に入れて保存していました。
そこで、2014年、
トレハロースによる
保存処理技術を導入。
木の変形や鉄釘のサビなどを防ぎ、
元寇遺物なら
鎌倉時代の状態により近づけて
復元できるようになりました。
保存処理にかかる期間も、
以前は10年かかった大きなものも、
今では3〜4年に短縮したそうです。
安木さんが現在の仕事に就いた
きっかけは、小学生の頃。
海外の遺跡や発掘調査の
テレビ番組を見るのが好きでした。
高校在学中、宗教学の授業で
フレスコ画の絵画修復を知り、
文化財の修復保存に出会います。
奈良県の大学に進学し、専門性を磨きました。
「私は、文化財の中でも
伝世品(でんせいひん)より
あまり文字資料が残されていない時代の
出土品が好きなんです。」
伝世品は、代々受け継がれてきた
美術品や歴史的遺物のこと。
一方、出土品は壊れたり捨てられたりした
当時の日用品が大半だといわれています。
安木さんは、出土品によって
人々の暮らしを再現できることにも
魅力を感じるそう。
「今使っている道具も、
昔の人たちが作ったものから派生しています。
斧やお皿も今とあまり形状が変わらない。
出土品を保存処理した時に、
『これがベストな形なんだ』
って思いますね。」
2020年には、
元軍の沈没船の木製いかりを
引き揚げるクラウドファンディングも実施。
200名以上の方の支援で目標金額を達成しました。
今後、沈没船を引き揚げることができれば
将来的には復元の可能性もあるとのこと。
「元軍の痕跡が多く残っているのは鷹島だけ。
まだ確実に日本で作られたといえる遺物は出土していません。
応戦した松浦水軍が勝った、もしくは
無事に逃げ切ったということかもしれません。」
遺物の保存処理を通じて
松浦の歴史を
解き明かしていく安木さん。
松浦の歴史も
安木さんも、
その魅力は
まだ見ぬ可能性を秘めています。

安木由美さん
1993年福島県生まれ。家族の転勤により引っ越しのある家庭に育ち、いちばん長く暮らしたのは岩手県。高校在学中、フレスコ画を見て文化財修復に関心を持つ。奈良県の大学で文化財保存について学び、修士課程修了後、2019年に松浦市役所職員として松浦市立埋蔵文化財センターに配属。特に好きな時代は古墳時代〜平安時代。